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いじめ対策プロジェクト

見過ごされてきた傍観者

 いじめ対策プロジェクトは見過ごされがちな傍観者への介入を進めることで、年に 20 万件以上起こっているいじめ被害を減らすプロジェクトです。このプロジェクトは2016年に新しく始まりました。

 いじめは平成24年度上半期で 144,054 件発生し、そのうち生命や身体の安全を脅かすような重大な事態に至るおそれがあるものは学校側が把握しているだけでも 278 件ありました。

 一見、いじめは加害者と被害者の二者間の問題であるように思われるかもしれません。しかし、いじめは単に二者間の問題ではなく、傍観者の肯定的な態度がいじめる側の欲求を満たす役割を果たしています (Salmivalli, C., & Peets, K. 2008 、 Salmivalli, C., Kärnä, A., & Poskiparta, E. 2010)。このことは、ある中学校での 196 人に対する質問紙調査の結果から、傍観者の規範的圧力がいじめを抑制し防止に効果的であることからも支持されています (大西, 2007)。

 実際に、傍観者への介入は有効であることが示されています。10 か国 14 のプログラムを比較した研究から、被害者・加害者への個別対応のみならず、学校全体への介入が重要であることが示唆されています (Smith et al., 2004)。加えて、世界各国 44 のプログラムのレビューによると、学校をベースとしたいじめ対策プログラムは、いじめ加害を 20-23% 、いじめ被害を17-20%減少させる効果があることが示されています (Farrington & Ttofi, 2011)。

 日本におけるいじめの傍観者へのアプローチは道徳教育や啓発にとどまっています。そこで、いじめ対策プロジェクトでは、複数の調査で効果が実証されている KiVa プログラムの導入・普及を目指しています。

 KiVa プログラムとは、フィンランドのいじめ対策公式プログラムです。このプログラムは、傍観者がいじめを目撃したときに被害者を助ける行動を起こせるようになることを目的とします(山崎, 戸田. 渡辺. ら 2013. )(北川裕子. ら 2013.)。

 プログラムは義務教育期間(第1学年から9学年まで)継続され、1~3 年生、4~6 年生、7~9 年生の3グループ別に各学齢に適した内容で構成されています。学校にかかわるすべての人々に働きかけができるように、生徒、教師、保護者のための多くの教材が揃えられています。また、バーチャル学習 (KiVaゲーム)が準備されていることも特徴的です。

 プログラムは主に、授業(KiVAレッスン)、KiVAゲーム、学校全体でのサポート(KiVAチーム)を主として構成されています。

 授業 (KiVAレッスン)として、児童生徒を対象に、担任教師が10回程度の授業を行います。生徒は、ディスカッションやビデオ、ペアや小グループでの体験学習などを通じ、主体的にいじめの影響や他者の尊重を学びます。

 全員が一緒に参加する教室でのKiVAレッスンだけでなく、個人として楽しみながら取り組めるKiVAゲームというものがあります。これは、インターネットに接続し、IDとパスワードを発行して、仮想空間でのロールプレイングゲームとして社会的関係について学べるものです。場面ごとに立ち止まり考えられること、相手の感情や考えが表示されることで現実には得にくいヒントが示されることなど、子どもが主体的かつ試行錯誤的に社会的スキルを学べる点にあります。

 学校でのサポート(KiVAチーム)として、各学校では、教員 2-4人からなるKiVaチームが構成され担任と協力して個々のいじめに対応する事になっています。チームは、いじめ被害児童生徒への個別対応や、いじめ被害者と加害者を交えてディスカッション等を行います。また、 いじめの起こったクラスの中心的な児童生徒を集めて被害者への支援を促すなど、計画的なフォローアップもあります。

 このようなパッケージ化されたプログラムによりKiVAは非常に効果的なアウトカムを出しています。

 KiVa プログラムの効果は複数の調査により示されています。フィンランド国内の 39 校 (3,347 人) を介入群、39 校 (2,304 人) を対照群とした無作為割付試験 (randomized controlled trial, RCT) 調査では、プログラム導入 9 カ月後、介入校では調べた 9 タイプすべてのいじめが 21-63% 減少しました (Salmivalli, 2011)。他にも Kärnä (2011) や Williford (2012) といったフィンランド国内の RCT 調査により、被害・加害の減少やいじめられることへの恐怖の減少などが報告されました。KiVa プログラムは、フィンランドでは90%以上の小中学校で実施されていますが、実際にフィンランド全体で7,500件のいじめ加害と12,500件の被害を減らす事ができています(Kärnä A et al. 2011.)。

他国においても、例えばオランダでは被害報告が15.5% 減少しました (Veenstra, 2014)。その他にイギリス、イタリアでもいじめの減少が報告されました (順に Hutchings & Clarkson, 2015 および KiVa International, Nocentini A, Menesini E. 2016)。

 さらにこれだけ大規模なプログラムにも関わらず、イギリスでは参加した教員の73.3%が実施が容易だったと回答しており(Hutchings & Clarkson, 2015)、フィンランドでもKiVAにかかわった教員は,KiVAプログラムの導入後にいじめに対応できる自信がついたと感じている(Ahtola, A., Haataja, A, et al. (2012))など、非常に満足度の高いものとなっています。

 またキャンベル共同計画のシステマティックレビューでも、他のプログラムと比べて KiVa はいじめへの効果のオッズ比が高く (David P. Farrington, Maria M. Ttofi, 2009)、他のプログラムと比較しても効果が大きい事が示唆されています。

 日本では、イギリスやオランダといった他国と比較して傍観者が増え仲裁者が減りつつあるという傾向があります (国立教育政策研究所・文部科学省, 2005)。いじめ対策プロジェクトは、効果が実証された KiVa プログラムを専門家と協力して日本で導入・普及することで、傍観者への効果的な介入によりいじめを減らすことを目指して取り組んでいます。

 2017年上期の進捗として、地方議会での議会質問への情報提供や専門家を招聘しての議員向け勉強会の実施を行なっています。今後はプログラム導入、パイロット校の募集に向けプロジェクトを進めます。

【参考文献】

1) Salmivalli, C., Peets, K. (2008). Bullies, victims, and bully-victim relationships. In K. Rubin, W. Bukowski, & B. Laursen (Eds.). Handbook of peer interactions, relationships, and groups (pp. 322– 340). New York: Guilford.

2) Salmivalli, C., Kärnä, A., Poskiparta, E. (2010). From peer putdowns to peer support a theoretical model and how it translated into a national anti- bullying program. In S. R. Jimerson, S. M. Swearer, & D. L. Espelage (Eds.). Handbook of bullying in schools an international perspective (pp. 441–454). New York: Routledge.

3) 大西彩子(2007). 中学校のいじめに対する学級規範が加害傾向に及ぼす効果 カウンセリング研究,40, 199-207.

4) J. David Smith., Barry H., Peter K. Smith, Katerina Ananiadou. The Effectiveness of Whole-School Antibullying Programs: A Synthesis of Evaluation Research. School Psychology Review, 2004, Volume 33, No. 4, pp. 547-560.

5) Maria M. Ttofi., David P. Farrington. Effectiveness of school-based programs to reduce bullying: a systematic and meta-analytic review. J Exp Criminol (2011) 7:27–56.

6) 山崎勝之. 戸田有一. 渡辺弥生. (編著). (2013). 世界の学校予防教育:心身の健康と適応を守る各国の取り組み. 金子書房.

7) 北川裕子. 小塩靖崇. 股村美里. 佐々木司. 東郷史治. 学校におけるいじめ対策教育 ―フィンランドのKiVaに注目して― 不安障害研究,5(1), 31–38, 2013.

8) Christina Salmivalli, Antti Kärnä, Elisa Poskiparta. Counteracting bullying in Finland: The KiVa program and its effects on different forms of being bullied. International Journal of Behavioral Development 35(5) 405–411

9) Kärnä, A., Voeten, M., Little, T. D., Poskiparta, E., Kaljonen, A., & Salmivalli, C. (2011a). A large-scale evaluation of the KiVa antibullying program: grades 4–6. Child Dev, 82(1), 311–330.

10) Williford, A. Boulton, A. Noland, B. Little,Todd D. Kärnä, A., Salmivalli, C. Effects of the KiVa Anti-bullying Program on Adolescents’ Depression, Anxiety, and Perception of Peers. J Abnorm Child Psychol (2012) 40:289–300.

11) Kärnä A, Voeten M, Little TD, Poskiparta E, Alanen E, Salmivalli C. Going to scale: a nonrandomized nationwide trial of the KiVa antibullying program for grades 1-9. J Consult Clin Psychol. 2011 Dec;79(6):796-805.

12) Rene´ Veenstra. Groepsprocessen bij jongeren: over pesten en ander probleemgedrag. Kind En Adolescent | Jaargang 35 (2014), nr. 2, p. 86–99

13) Hutchings, J. & Clarkson, S. Introducing and piloting the KiVa bullying prevention programme in the UK. Educational and Child Psychology (2015) 32 (1), 49-61

14)KiVA International. サイト:http://www.kivaprogram.net/is-kiva-effective

15) Nocentini A, Menesini E. KiVa Anti-Bullying Program in Italy: Evidence of Effectiveness in a Randomized Control Trial. Prev Sci. 2016 Nov;17(8):1012-1023.

16) Ahtola, A., Haataja, A., Kärnä, A., Poskiparta, E., & Salmivalli, C. (2012). For children only? Effects of the KiVa antibullying program on teachers. Teaching and Teacher Education, 28(6), 851–859.

17) Farrington, D.P. & Ttofi, M.M. (2009). School-based programs to reduce bullying and victimization. Campbell Systematic Reviews, 2009:6.

18) 国立教育政策研究所・文部科学省. 平成17年度教育改革国際シンポジウム「子どもを問題行動に向かわせないために ~いじめに関する追跡調査と国際比較を踏まえて~」 報告書.

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